『文系と理系はなぜ分かれたのか』隠岐さや香著

本書でも触れられているように「文系・理系」という分け方は学問において必ずしも唯一の分類方法ではない。一方で、世界的にみても、大学の専攻などで大まかにこのような分け方をすること自体は一般的に存在しているようである。

 

興味深かったのは、西洋世界においては学問が宗教や王権から自律していく過程で二つの方向性が生まれ、それが現在の文系・理系と呼ばれる分野の違いにつながった、という点。ひとつは、神を中心とする世界秩序からはなれ、人間中心の世界秩序を追い求める方向性(文系)であり、もうひとつが、「神の似姿である人間を世界の中心とみなす自然観」から距離をとる方向性(理系)である。文系学問が、宗教から離れ、より人間中心的な価値観に移行する一方で、理系学問はむしろ人間を中心として世界を観測する方法から、より客観的な方法を使って世界を捉えるという方向へと移行した。前者にとっては人間こそが価値の源泉であるが、後者にとって人間はバイアスの源である。

 

学問の中には文系・理系に分類できないものや両者にまたがるものが存在するので、上記のような考え方が当てはまらない場合も当然あるとは思うが、「そもそも学問はなぜ生まれ、それを使って私たちは何をしようとしているのか」というようなことを考える時に、一つの手掛かりにはなるのではないかと思う。